新たな変革の世紀を創出するために
──共に学び共に闘う〝労働者学校〟の建設
                     『思想運動』第621号(2000年1月1・15日付)



多くの人はおそらく、新年を迎えるにあたって暦を掛けかえ、来る一年何をしよう、少しでも良い一年にしたい、と気分を引き締めることだろう。ことしは2000年、マスコミは千年に一回のミレニアムを祝えと騒ぎたて、世界中がY2K問題でおおわらわ。2000など単なる数の区切りだが、1969年3月に出発したわが会の活動もまる30年。区切りの年としてこの数字を活用し、心機一転、運動の再出発をも意図する大きな〝夢〟を語ってみたい。

われわれはこの間約三年ほど、政治・経済、文化・芸術の分野でそれぞれテーマを立て、これを本郷文化フォーラム連続講座と名付けて継続して実行してきた。たとえば文化・思想の分野では、〈戦後の文化・芸術・思想運動がめざしたものは何か──それをいかに継承・発展させるか〉を掲げ、花田清輝、大西巨人、廣末保ら、戦後精神を代表する文学者の、独創的かつ刺激的な仕事を取り上げ、その意義をそれぞれ5~6回のシリーズで追究した。さらに「新ナショナリズム諸潮流とその批判的検討」と題して、言論のみならずサブカルチャーや映像メディアをも視野に入れながら、跋扈するナショナリズムの諸潮流に切り込んだ。また〈映画を通して検証する──20世紀とは何だったのか?〉を10回、〈戦争の足音──映画を通して過去から現在を見る ファシズムがそこまで来ている〉を六回、〈検証・戦時下の日本映画──戦争の傷痕、屈服・翼賛・抵抗の諸相〉を六回開催。さらに〈生誕100年記念──ブレヒト、その思想と芸術〉を七回開催した。
政治・経済の分野では〈現代世界を考える〉の総合タイトルで、映像をつかい闘う韓国労働者の息吹きにもふれた「韓国情勢」シリーズをはじめ、「規制緩和・行革は何をねらうか」「新自由主義政策を問う」「『共産党宣言150周年』その現代的意義を考える」「いま、女性労働者は何をすべきか 労基法・派遣法改悪阻止に向けて」「『日の丸』・『君が代』問題、日本の軍事大国化」などをテーマにした労働運動講座をそれぞれ四~五回のシリーズで開催してきた。
本郷文化フォーラムでのこの約三年間の連続講座活動は、活動家の新しい出会いの場として定着した。
われわれはいま、この経験を基礎にさらに内容を充実・発展させ、2000年春の開講、半期5か月(週2回・40講座)一年制の研修所(学校・ワーカーズスクール)の建設を計画している。この研修所は、基本コース、政治・経済コース、文化・芸術コース(受講生は全コース選択可能)の他、テーマ別のゼミナール(研究会)を併設。労働者階級の闘いの階級的再建をめざす労組活動家と、それと結びついて闘う文化・芸術運動の新しい担い手とが共に学び合い、協働の道を探究し合う総合的な運動家の育成を目的とするものだ。われわれは、1969年の会出発以降これまで、一貫して、新聞『思想運動』・雑誌『社会評論』の発行を活動の両輪とし、マスコミをつうじて流布されるブルジョワ虚偽意識を暴露、これと対決し、プロレタリア‐インターナショナリズムにもとづく労働者階級の進路を指し示す〈革命的ジャーナリズムの創出〉をみずからの課題としてきた。ワーカーズスクールは、いまやまったくといっていいほど失われている労働者階級の階級意識の再形成をめざし、講師と生徒といった枠をこえ、参加者同士が直接的に触れ合い、自由な討論のなかから学習の喜びを創造する、そういう場としたい。
ソ連‐東欧の社会主義世界体制崩壊以降現出した、マスコミのよぶ〝グローバル化した資本主義の新時代〟とはどんなものか。われわれが目撃するのは、人類の存続をも危うくするような野蛮な世界の出現だ。さらにこの10年が示すのは、働く人民の生活への圧迫、権利の剥奪・縮小、他国への干渉と侵略のため増大する軍事力、すさまじい勢いで進められる軍事同盟の強化だ。平和とはおよそかけはなれた硝煙と難民の時代がひろがろうとしている。富めるものはさらに富み、貧しきものはさらに貧しくなる世界……。
どうしたらこの時流を押し止め、20世紀初頭に人類が思い描いた理想社会、社会主義への道をもう一度切り拓くことができるか。そのためにいま、この時代に矛盾を感じ、その解決の道を時流に抗して探ろうとする人々が──とりわけ労働青年と学生が──共同して20世紀の歴史を学び直し、現代社会の政治・経済・文化を分析し、21世紀を新たな変革の時代とする方法を探究する〝学校〟を──そういう〝共同体(コンミューン)〟を──創り出すべきだと思うのだ。くりかえし言うが、この〝学校〟は、教える人と教わる人が截然と分けられる場ではない。両者が一体となって学び合う「場」として〝学習のコンミューン〟を形成したい。〝教養としての知識〟を切り売りする〝カルチャーセンター〟的なものではなく、この世界を、社会をどうしたらよりよいものに変革していけるのか、未来社会の在り方、そこへの到達の道をともに探究し、かつ、実践していく、変革の哲学、思想、文化を育て、学びとる場としたい。ここではまた、おたがいを変革の主体たらしめるための基礎的な知識の習得をめざすとともに、全員で文化芸術の総合的体得に取り組む。これからの時代の担い手として働く人々──すなわちその中軸の労働者階級こそが新しい文化の創造者であることの自覚をうながす。新しい時代の知的、道徳的ヘゲモニーを担う労働者のアヴァンギャルド(前衛)たらんと切磋琢磨する場、これが、わが〝学校〟にほかならない。
「新ガイドライン法」という戦争法が制定され、「日の丸」・「君が代」が国旗・国歌として法制化され、盗聴法・国民総背番号制までが施行されるといった、新たな「戦前」体制づくりが急テンポで進められている。情容赦ないリストラ・首切りが横行し、人民の民主的諸権利には〝規制緩和〟という剥奪攻撃が襲いかかる一方、それに反撃する労働者・人民の陣形はいまだ十分かたちづくられていない。状況の困難を他人のせいにすることなく、容易ではない計画と自覚しつつも、この〝学校〟建設の大事業の成功にむけて努力を倍加したい。
会員・読者・協力者のみなさん!
力をあわせ2000年を前進への足掛かりの年としよう。