HOWS講座で北健一さんを講師に討論
「働き方改革」とどう対決するか


 六月二十八日に開催されたHOWS講座〈やりがい搾取と働き過ぎの国、労働者はいかに闘うか――電通事件の取材から〉は、労働ジャーナリストで出版労連書記次長の北健一さんが講師。北さんは二四歳の女性労働者、高橋まつりさんの過労自殺を追った『電通事件』を今年二月、旬報社から刊行している。
 電通では一九九一年にも当時やはり二四歳だった男性が長時間労働とパワハラで自殺に追い込まれている。
 そのころ自殺はまだ労災になるとは考えられていなかったのを、遺族と弁護士の闘いが状況を変えていった。二〇〇〇年の最高裁判決は会社が損害賠償責任を負うとしたのである。ところが法廷での闘いを現場の労働運動が生かせないできた。高橋さんが二〇一五年十二月二十五日に会社の女子寮から身を投げるにいたる経過は『電通事件』に詳しいが、たとえばその二か月前、十月二十六日の彼女は朝六時過ぎに出勤して会社を出たのは翌日の午後二時過ぎだ。拘束は三二時間、労働時間は三一時間を超す。労働は苦役であるだけでなく、それを通じての自己実現という面もたしかにあり、そこに「やりがい」を感じもする。だから働き過ぎてしまう。そうであるからこそ行き過ぎないよう線を引かなくてはならないのだ。いっぽう政府の「働き方改革」はアベノミクスがうまくいっていないことの苦しまぎれに「生産性向上」を出してきているのである。時間外労働の上限が月一〇〇時間というとんでもない数字に明らかなように、そこには憲法が保障する働く者の人権も、健康を守るという視点も決定的に抜け落ちているのだということを、北さんは強調した。
 討論では、この日も四時間の超勤のあと講座の途中から参加した郵政の労働者、長時間労働の最たるものであるトラックドライバーからの過酷な労働実態の生々しい報告をはじめとして、活発な発言があった。さて「働き方改革」ではフリーランスという形の雇用されない=労働基準法に守られない働き方を拡げようとしている。しかし、実態として労働者性(使用従属性)があれば労働組合法はこれを労働者とする。
 自営業者化することで団結しづらいようにするのが政府・資本の狙いだけれども、労働者として闘えないのでも法に守られないのでもない。
 政府の「働き方改革実現会議」が行なってきた去年九月から今年三月まで一〇回の会議は、毎回せいぜい一時間ほどの顔合わせ程度で議論を充分に尽くしたなどとはとても言えない。裁量労働制の拡大と高度プロフェッショナル制新設は連合だって同意していないはずだが「働き方改革実行計画」には合意したことにして押し込まれてしまっている。職場からの労働組合運動の再建を通じてこれらをはね返すことは労働戦線における壊憲阻止の闘いでもある。 【土田宏樹】

(『思想運動』1004号 2017年7月1日号)