<HOWS講座> 沖縄反基地闘争の現場から――名護市長選を目前にして
沖縄との連帯、問われているのは「本土」の民衆運動だ


 一月二十日、沖縄大学地域研究所特別研究員の毛利孝雄さんを招いて、HOWS講座「沖縄反基地闘争の現場から」が開かれた。まず小川町シネクラブが一九九八年に制作したビデオ「海上基地はいらない 名護」を鑑賞し、沖縄への辺野古基地計画押しつけの経過と、当時の県民の闘いを見た。住民投票では勝利したが、名護市長の裏切りがあり、市長選では自民党に巻き返されるなど、政府のいつものやり口と、今も変わらぬ差別的構造に憤りつつも、当時の自分が沖縄の基地問題にどれだけ無理解だったかを思い出しもした。
 次にDVD『高江・森が泣いている2』収録の山城博治さんらの発言を見て、米兵による女性への度重なる性犯罪と殺人の被害を身近に感じてきたことが、基地反対運動を担う原点にあることを知った。
 つづいて毛利さんから、「本土」から沖縄へ行った人間として、本土とは異なる戦後史を送ってきた沖縄の特殊性を感じたというお話をうかがう。いまだ不発弾が毎月のように発見され、軍用地の売買広告が新聞に出る土地柄。戦前はアメリカやブラジルへ、また戦後は生活が苦しいゆえにボリビアへ移民せざるを得なかったが、五年に一度の「世界のうちなんちゅ大会」では二世から四世にわたり五〇〇〇人が集まるという。そして本土ではまるで関心を払われない六月二十三日の沖縄慰霊の日。家族同士が殺しあいを強要されたチビチリガマの惨劇は、語り得ぬ重い戦争体験として三八年間も伏せられてきた。
 そして今、その沖縄に辺野古新基地建設が押しつけられようとしている。そもそも米海兵隊の「戦略展望2025」には、辺野古新基地と高江の北部訓練場、伊江島の飛行場を併せて整備し、基地機能を飛躍的に高める狙いが明記されている。また「普天間返還条件の密約」には、辺野古基地では滑走路が短くなるからと、那覇空港など全国一二か所の空港使用を求める内容を含んでいる。一方で宮古・八重山への自衛隊配備や、本島北部基地の自衛隊共同使用も進められているが、ようするに負担軽減のための基地返還条件に名を借りた沖縄のいっそうの軍事要塞化と、安保法制と集団的自衛権に基づき離島での戦闘を想定した日米合同訓練を思うがままに行なうことが目論まれ、その核心部に辺野古の基地建設強行があるのだ。
 高江では工事費が九四億円のうち六三億円が民間警備員に使われている。続発するヘリ事故、昼夜を問わないオスプレイ訓練により、住民生活は破壊され、ノグチゲラが死んだ。辺野古では設計概要の工程を無視して仮設道路と護岸工事が着工されているが、これには市長選・県知事選に向けてやりやすいところから工事を進め、民意を屈服させようという狙いがある。反対派はカヌー隊での海上抗議活動をつづけているが、参加者の不足で苦戦している。一方、新たな海上ボーリング調査の発注があったが、これは海底の地盤が脆弱な琉球石灰岩であるため改良工事が必要なことと、大浦湾に活断層がある疑いがあり、高さ一〇メートルにも及ぶ埋め立てを行なうには技術的な不安があるからだ。基地には大量の弾薬と化学物質が配備されるので、もし地震に見舞われれば甚大な災害をもたらす恐れがある。
 このような基地建設を阻止する上で、沖縄県知事と名護市長の権限は不可欠だ。県知事が起こした差し止め訴訟では、実施設計の事前協議や岩礁破砕許可などに関連する違反行為が問われているし、何といっても翁長知事による「埋め立て承認」の撤回が待たれているが、これには理由固めを十分にした上で、国民世論を喚起するタイミングで踏み切ることが必要となる。
 このような自治体の首長にまで至る「オール沖縄」が形成された背景には、沖縄が置かれてきた過酷な近現代史がある。廃藩置県における琉球処分、本土防衛の捨て石にされた沖縄戦を経て、戦後は米軍支配下の「核密約」で一三〇〇発もの核兵器が配備され、施政権が日本に返還された後も基地を集中的に押しつけられ、経済的にも苦境を味わわされてきた。だが、その仕打ちに対する民衆の脈々とした抵抗運動が、政府の欺瞞的な政策への気づきを呼び起こし、単に保守と革新の枠を超えるだけでなく、さまざまな多様性と内部矛盾をも抱えた広範な共闘を作り上げさせたのだ。
 では沖縄の民衆運動とは何か。それは「一人でもやれることを自主的に始める」というスタイルを持つ。普天間・辺野古・高江での座り込みも、当初は少数の人びとによる行動だったが、強い意志を持った個人による非暴力の行動が支援の輪を呼び、やがて労組などの組織とも結びついて、現在までつづく闘争の「現場」を作り出した。さらには県内外からやって来る支援者の受け入れ態勢を整え、交流と表現行為の場として、あるいは若い世代に歴史をつなぐ学習の場として、種々の社会問題に立ち向かう「権力と大資本から疎外された人びとの魂の共同」の空間を築き上げてきた。
 その沖縄の運動が窮地に立たされつつある今、問われるのは本土のわたしたちがこのような「現場」をどうやって作り出し、沖縄と連帯するかだ。安保法制反対、オスプレイなど米軍訓練の各地での増大、環境保護、地方自治と地域社会の再生、警察の不当弾圧と共謀罪など、全国で共有できる課題も多い。名護市長選の支援のためにも現地での座り込みに馳せ参じよう。本土でもMXテレビ「ニュース女子」のデマ放送への抗議、沖縄への機動隊派遣の違法性を問う住民訴訟、安保法制反対の街頭署名などが取り組まれている。沖縄の苦しみを他人事で済ませて「第二の加害者」にならぬよう、一人ひとりが勇気をもって自律した行動を開始し、粘り強く理解者を増やし信頼関係を築いていこうとの毛利さんの呼びかけを、参加者一同でしっかりと受け止めた。 【野田光太郎】

(『思想運動』1015号 2018年2月1日号)