2018年度前期HOWS開講講座
いまなにが問題か? を議論し、行動するために
「日本のナショナリズムと近現代」へ積極的参加を!

日本ナショナリズムの核心としてある天皇制を克服するために


 二〇一八年度前期HОWS開講講座が五月十二日㈯に、昨秋刊行された『日本ナショナリズムの歴史』の著者梅田正己さんを招いて、「日本のナショナリズムと近現代」の演題で開かれた。参加者は五七名と会場一杯の盛況であった。会場を新たに、HОWSの再出発にふさわしい熱のこもった講演と活発な論議が行なわれた。
 HОWSでは二〇一八年度の講座のひとつの大きな柱として「日本のナショナリズムと近現代」のテーマで、前期と後期を通して一年かけて『日本ナショナリズムの歴史』全四巻を学習していく。本著は第一巻で「日本ナショナリズムの源流」として本居宣長と水戸学を取り上げ、第四巻では敗戦後の日本における国家主義復権の動き、現下の自民党の改憲草案まで論述している。日本ナショナリズムの流れ、動きを源流から今日まで二五〇年間の歴史のスパンでとらえる試みはこれまでなかったことであり、画期的なことである。梅田さんはわれわれに日本のナショナリズムを学ぶための格好のテキストを準備してくれた。
 安倍首相は憲法を変えることに執着し、そのことに政治生命を賭けているようである。一九五〇年、朝鮮戦争が勃発するやマッカーサーは警察予備隊の創設を指令した。戦争放棄、非武装の日本国憲法の創設に力を貸したGHQは朝令暮改、手のひらを返した。それに乗じて、吉田茂首相は「愛国心、独立心」の喚起を訴え、文相天野貞祐は「日の丸掲揚」「君が代斉唱」を通達する。日本ナショナリズム復活の動きは敗戦五年にして早くも始まったのである。
 その後も教科書への政治介入、紀元節復活、「明治百年記念式典」の国を挙げての大イベント、元号法公布、国旗・国歌法制定、教育基本法「改正」、「戦争法」の成立とかれらの意図は一貫している。安倍の明文改憲の強い意志は戦後保守政治の悲願なのである。
 またかれらを支える独占ブルジョワジーの意志なのである。安倍政権は倒さなければならない。しかし「安倍」を倒しても問題の本質的な解決にはならないことを肝に銘じておかなければならない。自民党の「改憲草案」は前文に「日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち……象徴である天皇を戴く(……)国家」と書き、その一条で「天皇を日本国の元首」に位置づけている。日本ナショナリズムの核心に天皇を「象徴」という曖昧さでなく、確固とした存在として位置づけたいのである。言うまでもなく「戴く」は「頭にのせる」「かぶる」の意味である。われわれ人民の頭の上にまた天皇をのせようとしているのである(以上の叙述は梅田さんの報告にもとづいて筆者がアレンジを加えたものである)。
 『日本ナショナリズムの歴史』は如上のようなアクチュアルな問題意識のもとに書かれている。今年の十月二十三日は明治維新一五〇周年であり、政府は「明治万歳」のキャンペーンを大々的に展開するであろう。来年の五月には天皇の代替わり(改元)がある。文化の日を「明治の日」(十一月三日は明治天皇の誕生日)に変えようという動きもある。このような戦前回帰とでもいうような天皇制ナショナリズム強化の動きを阻止する闘いを構築するために、歴史を遡り、日本ナショナリズムの因って立つ基盤を検証し、天皇制がかくも多くの国民に支持される原因を探る作業がどうしても必要である。
 梅田さんから講座で検討してもらいたい問題がいくつか出された。
 ⑴ナショナリズムの源流を本居宣長に設定したこと。⑵宣長論から著者が導き出したナショナリズムの「定義」について。⑶国学や水戸学で、天皇は「地球中の総天皇」「地球の元首」としたことについて。⑷水戸学から生まれた「国体」論について。⑸武家社会になって権力を失ったにもかかわらずなぜ天皇家は存続できたのか。⑹明治維新のとらえ方をめぐって。⑺自由民権運動をどう見るか。⑻日本帝国主義の始まり――朝鮮・中国侵略の軌跡の八点である。どれも難問である。梅田さんの要望に応えられるかどうか。さらにこれだけにとどまらず講座の参加者が課題を持ち帰り討論を深めて、日本ナショナリズム克服の道を切り開いていければと思う。
 みなさんの積極的な参加を期待しています。 【渥美 博】

(『思想運動』1023号 2018年6月1日号)