2018年度前期HOWS開講講座
いまなにが問題か? を議論し、行動するために
HOWS第2期の開講にあたって

変革の拠点として育てよう!


 HOWS(本郷文化フォーラムワーカーズスクール)は、二〇〇〇年四月に、「変革のための共学の広場」、「講師と受講生がともに意見をぶつけ合い、討論を通じてお互いが切磋琢磨し成長する、学習と行動の場」として出発しました。二〇〇〇年の開講講座は、作家の大西巨人さんと評論家でHOWS設立の提唱者である武井昭夫さんとの「言論・表現公表者の責任」と題する対談でした。以降、改憲反対、労働運動・婦人運動・青年学生運動の再生の課題、社会主義をめざす世界の人民との連帯、文化イデオロギー闘争の重要性などをテーマに、今日まで活動をつづけています。
 すでにご承知のように、昨年十月、わたしたちは事務所を移転しました。仲間の献身的な協力の下、改装、設備充実を行ない、ご覧のような多目的スペースをつくることができました。その間約半年の間にも一と月に一~二回程度講座を行ない、今日の前期開講を準備してきました。また一階という好立地をいかし、いまでは音楽、演劇、講談などの練習と実演、英語講座や各種の講座・会議などに活用されています。
 HOWSは、さまざまな個人・団体の方の協力のもと運営していますが、その運営の中心は一九六九年に出発し、来年三月で創立五〇年を迎える〈活動家集団 思想運動〉が担っています。思想運動は「労働者階級の階級意識の再生」をめざして出発し、以来一貫してインターナショナリズムの旗を掲げてきました。同時に、わたしたちが出発した五〇年前が明治一〇〇年に当たっており、こんにち同様、政府とマスコミによるナショナリズムと天皇制イデオロギー注入の危険性も深く認識していました。
 一九六九年三月の新聞『思想運動』の創刊号の第一面は、沖縄の反基地闘争との連帯をめざす主張でした。そして「朝鮮問題は日本労働者階級の国際主義の試金石」と位置付け、創刊以来一貫して朝鮮の自主的平和統一を支持し、在日朝鮮・韓国人民の民主的権利の擁護を訴えてきました。一九七五年からは、労働者階級のたたかう知性をつくる総合誌『社会評論』も発行しています。
 今日の開講講座である「明治一五〇年の歴史を問い直す!」という前期・後期一〇回のシリーズは、梅田正己さんの『日本ナショナリズムの歴史』全四巻をテキストとして使用します。この企画は、わたしが今日の司会進行をつとめる編集者の渥美博さん、〈思想運動〉事務局責任者の土松克典さんに強力に働きかけ、実現してもらいました。先ほどお話しましたHOWSの創設者の武井昭夫さんは、戦後まもなく結成された全日本学生自治会総連合(略称・全学連)の初代委員長で、一九六九年に出発した〈活動家集団 思想運動〉の責任者を、亡くなる二〇一〇年までつとめました。
 武井さん、そして今日も参加されているパートナーの武井美子さんは、出版社・三省堂で梅田さんといっしょに仕事をしたことがある、と伺っています。
 第四巻の「あとがき」に詳しく書かれていますが、梅田さんは最初、三省堂で高校生を対象とした月刊誌『学生通信』の編集をしていました。その後、三省堂の三代目オーナー社長の復帰と経営・編集方針の変更に際し、会社を辞め、こんにちの高文研の前身、高校生文化研究会をつくりました。その名前が示すように、梅田さんは出版人の最初から高校生を対象とした仕事をされてきたのです。こんどの著作が「日本ナショナリズムの歴史」という大テーマを扱っているにもかかわらず、読みやすいというのは、こうしたことが反映しているのではないでしょうか。
 高文研はその後、人文・社会科学全般の出版に取り組みますが、いくつもの沖縄の歴史と闘いに関する書籍、中塚明先生の朝鮮と日本の歴史に関する書籍など、飛び抜けた出版活動を展開されています。
 HOWSでは、これまでも、日本の近現代一五〇年をとおした歴史の検証をやろうという企画がありました。そしてその発生の原点からこの問題を考えなければならないという問題意識がありました。しかし、なかなか適任のチューター、そしてそれを首尾一貫し展開した書籍が見当たらないこともあって、個別に講師を変えて、いろいろな角度から、という風にやってきました。そこに今回の梅田さんの書籍が出たのです。梅田さんは、歴史学の研究者の専門化・細分化、そして日本ナショナリズムを扱うことでの対象領域の格段の広がり、それゆえに専門家が個人としてこの仕事に取り組むことの困難を指摘されています。そしてなまじ歴史の専門研究者でないだけに、自由な視点から歴史を考察し、自由な発想で解釈できるメリットを指摘しています。
 このシリーズでは、それぞれの回に報告者を立て、できればそれも若い参加者に報告を担当してもらい、討論したいと考えています。また日本のナショナリズム・近現代の歴史を朝鮮・中国・アジアの歴史と重ねあわせながら、検証したいと考えています。ですから、このシリーズには毎回出て、それに加えて報告も担当していただけると助かります。もちろんこれは青年にかぎりません。
 いま、朝鮮民主主義人民共和国と大韓民国がリードして、朝鮮半島の非核化、自主的・平和的統一の機運が高まっています。六月十二日にはシンガポールで朝米会談が行なわれることが発表されました。わたしたちは、政府・マスコミ、右翼潮流、そして「リベラル」のなかにも存在する朝鮮・韓国敵視、蔑視、民族排外主義が横行する日本の地で、この大きな流れを支持し、これに連帯する運動を、なんとしても広げていかなければなりません。【広野省三・HOWS事務局責任者】

(『思想運動』1023号 2018年6月1日号)