人命第一の中国のコロナ対策
人権がないのは資本主義国の方だ!
村田忠禧(横浜国立大学名誉教授)
以下の文章は、HOWS夏季セミナーの二日目(八月二日)に村田忠禧氏が行なった補足的報告(本報告の後休憩をはさんで行なわれた)のなかの中国のコロナ対策を論じた部分をまとめたものである。
【編集部】
新型コロナウイルスの感染者数の国ごとの推移を見ると、三月二十六日の時点では、世界全体が六六万数千人、その時はもうアメリカが一番多くて一二万超、二位がイタリアで中国は三番目だった。ところが、その四か月後の七月二十九日になると、感染者数は世界全体で一六六八万人を超え、一位はアメリカで四五三万超、中国は八万四四六〇人で二七番目とその順位はずいぶん下がっている。日本は三万二九五四人で五五番目だった。しかし現在の感染拡大の調子でいくと、日本の感染者数が中国を超えていく可能性がまったくないとは言えない。中国はこれ以上増えないだろう。今ちょっと増えているのはウルムチのところだけだが、ここも間もなく制御されていくだろうと思う。
この間、日本政府の対応は中途半端というか、後手後手のやり方に終始している。
中国の武漢ではじまったコロナとの戦いだが、日本は中国の対策からもっとよく学ぶべきだと思う。
「対向支援」とは
感染が広まる最初の段階で武漢市の党が適切な対応をできなかったことは確かだと思う。しかし、新しい事態なので仕方がなかったという面もある。なにせどういうウイルスかわからなかったのだから。しかし、一月の後半にはこのウイルスが人から人へ感染する非常に強いウイルスだということがわかる。それを受け党中央は、一月二十三日から人口一一〇〇万人の武漢市の完全封鎖に踏み切る。これは非常に正しい方針だった。
その時に採られた政策の一つが対向支援という、都市と都市、地域と地域がペアを組んで支援していくというスタイルだ。この制度など、日本はこれからもっと研究して自分たちの施策に生かしていったらいいと思う。
対向支援はもともとチベットではじまった。非常に貧しい地域であるチベット、そのラサを北京市が、シガツェを上海市が、というようにペアを組んで援助する。支援活動をする人を派遣したり物資を送ったりする。それだけでなく、チベットの人を北京をはじめとする全国の大学などの教育機関で学ばせる。高校生もまねかれて勉強する。そうして人材を育成する制度だ。
四川大地震の時もこの制度が利用され大きな成果を収めた。それによって四川の被災地の復興はものすごく早く成し遂げられた。
日本ではどうか。いまだに東日本大震災からの復興が完全には終わっていない。こういう時にこそ、中国の対向支援の考え方を学ぶとよかったと思う。日本でも自治体相互の支援はあった。ご存じのとおり阪神大震災で被害にあった自治体が東日本大震災で被災した自治体を援助するということがあった。しかしそれはみんな自治体自身の判断で行なわれたことだ。
中国の場合は、中央政府、あるいは共産党中央が指令を出せば、全国でバーっと一斉に進められる。それは中央集権化されているからできるという面がある。日本は地方自治を大事にするからこういう全体主義的やり方はダメだという議論も出てくるが、そんなことはない。いいところは学ぶべきだ。
武漢では、火神山、雷神山という専門病院をわずか一〇日間でつくった。それも一〇〇〇床、一六〇〇床を備えたたいへん大きな病院だ。また、体育館とか展示センターなどイベントをする大きな施設を一時的に借り上げ「方舟病院」とした。感染者をまずここに入れる。そこで重症と軽症を見分けて、重傷者は設備の整っている火神山などの専門病院に入れる。そういうやり方をした。
東京都などでは、ホテルを借りてやっているが、感染する危険のある家族をいっしょに宿泊させたり、ちゃんとした医師は一人か二人しか置かないとか、やっていることが非常に不徹底、中途半端である。
米や日本はカネの方が大事
日本ではコロナ対策と経済とを天秤にかけるようなことをしている。中国の場合は、生命第一、人命第一であって、コロナを制御することをまず第一に行なう。その際経済状況がある程度悪化してもしょうがない。けれども先にそれをやってしまえば人心が安定する。そしてコロナ被害を迅速に抑えることができる。そうすると早く経済を発展させることに力を入れられる。中国では一時期経済がストップしてしまったが、今はV字型に回復している。人間の命を大事にするという考え方が元にあったからこのように成功した。
よく中国に人権がないというけれど、人権がないのはむしろアメリカや日本の方で、かれらにとってはカネ、経済の方が大事なのだ。トランプのしていることはまさにそのとおりで、何十万人死のうと大したことはないという考えだ。自分の保有している株が上がる方が大事、あるいは自分が選挙で勝つことの方が大事なのだ。中国には人権がないという人がいるが、人権が欠如しているのはアメリカや日本などの資本主義国の方だ。
みなさんにはぜひ竹内亮さんという日本人の映画監督が中国で撮った映像を観てほしい。竹内さんは七月はじめの八日間、武漢に行って街の様子をビデオにおさめている。確か『お久しぶりです武漢』というタイトルだと思うが、ユーチューブで見ることができる。この映像はすばらしい。一時間以上の長い作品だが、武漢でのコロナ対策の実際の様子、その優れた面がよくわかる。八人の中国の人、確か全員女性だったと思うが、そういう人たちに取材している。びっくりしたのは、武漢の人びとがみんな明るいことだ。七月初旬ですでにコロナを制圧した後なので、マスクを着けていない、平気なんだ。徹底したコロナ対策が行なわれた結果だろう。PCR検査だって全員やっている。感染したことがある人は四十数回PCR検査を受けたという。検査の費用は、政府が出してくれるので全部無料である。
日本の場合は検査を受けるのにお金がかかる。それもかなり高額だ。しかし、いっぽうで必要もないマスクを配るなど、ずいぶん無駄なことをしている。本当に重要なやるべきことをしていない。
中国がなぜコロナ対策に成功したのか。共産党の独裁政権だからできたんだ、なんていう人がいるが、そんな勝手な決めつけをしないで、ちゃんと中国の対策を研究してほしい。もちろん日本ではそのままではできない部分もあるだろうが、良い点は学んで、日本の実情に合うやり方を考え、取り入れていけばいい。
監視社会と言われるが
学ぶべきは、おカネじゃなくて人命だという精神を徹底しなきゃいけないということ。そうすればみんな政府のすることを信用する。なぜ日本でコロナ対策が徹底しないかというと、みんな政府を信用していないからだと思う。
たとえば、日本でもスマホの位置情報機能を使って感染を避けるようなシステムを広めようとしたが、まったく普及しなかった。みんな参加しなかったからだ。中国の場合は、スマホは、銀行の口座開設にも、身分証明書などにもすべて連動している。これで個人の行動がみんなわかってしまう。それを監視されている、監視社会だととらえ、監視といえばすべて否定的に見る人もいるけれど、自分たちの安全を確保するためには必要な措置だという考え方もある。もちろん無制限にやっちゃいけないが、中国でコロナ対策に利用される場合は、みんなが納得できるようなやり方でやられているのだと思う。
日本でも政府が国民に信頼されていれば、そうしたシステムも普及するのではないか。普及しないのはまったくそうなっていないからだ。
(『思想運動』1056号 2020年9月1日号)
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