HOWS講座
飯島滋明氏 戦争をさせない一〇〇〇人委員会事務局次長 が報告
改憲勢力が優勢な状況のなかどう反戦平和運動を進めるか
六月十一日(土)のHOWS講座では、名古屋学院大学で憲法学・平和学を教える飯島滋明さんを講師に招いた。飯島さんは、「戦争をさせない一〇〇〇人委員会」事務局次長・「安保法制違憲訴訟」常任幹事であり、憲法審査会の参考人にもなった。昨年の衆院選挙での自公政権勝利後は、憲法審査会の七会派のうち五会派が改憲派となり、議員数でも四分の三が改憲勢力となった。その結果、今年の二月十日以降、衆議院の憲法審査会は予算委員会開催中でも毎週開かれるようになった。参院選挙後は改憲の国民投票へ動き出す危険性がきわめて高い。以下は飯島さんの講演の要約である。 【編集部】

ウクライナ侵攻後の「壊憲」への動き

第一に、二月二十七日の橋下徹司会のTV番組で、安倍晋三元総理が、核シェアリング(核共有)に言及した。その後、日本維新の会、国民民主党が議論すべきと主張した。第二は、「敵基地攻撃能力」論と「防衛予算」倍増の要求である。敵基地攻撃論は、二〇二〇年イージスアショアの地上配備撤回と引き換えに安倍首相が主張した。一九五六年鳩山一郎内閣が出した「外国からミサイルが飛んでくるとわかった時には、先に叩くことを憲法上で認められている」との主張を踏襲するものである。四月二十六日、自民党は、安全保障調査会での「防衛三文書」改定に向けた提言書で、「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」と言い換えたが、内容は変わらず、さらにその対象範囲をミサイル基地に限定せず、指揮統制機能なども含むとした。この変更により、北京や平壌の、日本では市ヶ谷の防衛省にあたる場所が直接の攻撃対象となろう。この提言書には、「防衛費」を五年以内にGDP二%以上とすることが書かれている。日本維新の会も選挙公約「維新八策」(六月二日)で、同様のことを主張している。明文改憲については次のような動きがある。二月一日以降、自民党の憲法改正実現本部(昨年十一月までは推進本部・改名は岸田首相による)は、全国各地で改憲のための集会を開催した。四月三日、安倍元首相は山口での講演で、二〇二三年の当初予算防衛費六兆円を要求し、敵基地攻撃論では相手の中枢への攻撃を主張し、憲法九条への自衛隊明記は政治家の責任とした。安倍の政治責任はほかにあるはずだが。

三月十七日の衆議院憲法審査会

改憲法案は憲法審査会での審議を経て衆参両院に提案、総議員の三分の二の賛成で可決されて国民投票となる。三月十七日の衆議院憲法審査会は、「国会議員の任期延長」と「緊急事態条項」を中心に議論された。「国会議員の任期延長」は、衆院四年、参院六年の任期を自然災害や戦争の時には延長するという案である。自民・維新・公明・国民民主が賛成している。
三月三日には、オンライン出席の問題が議題となった。憲法第五六条には、「出席」とある。コロナ蔓延や戦争によって三分の二の議員が議場に出られない状況となった場合、例外的にオンライン出席が認めるとのとりまとめがなされた。改憲派にとってその意味は、国民投票法ではなく憲法本体に踏み込んだところにある。三月十七日の「国会議員の任期延長」の問題に踏み込む前例となった。
「緊急事態条項」の危険性は、緊急事態が宣言されれば首相には何でもできる権限が与えられる点にある。ロシアのウクライナ侵攻後は、「国会議員の任期延長」と「緊急事態条項」にかかわる対象が戦争・内乱・テロ・自然災害・コロナ感染にひろがり、人権制限を含む緊急政令や財産処分の権限についての主張が公然と始まった。自民・維新・国民民主は意見が一致している。公明党は今の段階では、反対している。

各党の立場

五月十八日、日本維新の会は、「九条のイメージ」を公表した。「第九条の二、前項の範囲内で法律の定めるところにより、行政各部の一として、自衛のための実力組織として自衛隊を保持すると明記する」――十九日の審査会で、維新はこの条文を提示した。憲法審査会自民党筆頭幹事新藤義孝議員は、「自衛隊を明記するのは主権国家として当然のこと」と主張した。玉木雄一郎国民民主党代表は、九条に自衛隊の容認を書き込むという。公明党は、九条一項二項は変えないが、七二、七三条に自衛隊を明記するとしている。いずれも憲法上の責務ということで、徴兵制の根拠となる。八〇歳の女性でも、運転免許書を持っていれば、徴兵できると自衛官から言われたことがある。使い捨ての兵士が必要とされるのだ。
参議院では、小西洋之野党筆頭幹事の下で、改憲政党に対して一定の抵抗を行なっている。衆議院では改憲四党が圧倒的に優勢なため、立憲民主党・共産党・社民党の抵抗にも限界がある。共産党も憲法審査会を開かせないという抵抗はできない。憲法審査会は、政局に左右されず与野党の合意を重んじて開催などを決めるという「中山方式」は捨て去られ、改憲四政党が強硬に運営している。「憲法改正」に向けて、今の段階で進展しないのは、参院選挙があるからだ。今国会は参院選を見据えて対決法案を避けるため、入管法の改悪も見送った。参院選挙において改憲政党を追い詰めることが必要である。選挙後、三年間は選挙が行なわれない可能性がある。この間に「憲法改正」国民投票が狙われている。改憲派には、「黄金の三年間」である。衆議院ではほぼ毎週、憲法審査会が開かれたことで、「十分な議論は尽くした」、「議論は尽きた」と改憲四党が主張する恐れがある。憲法審査会の開催は、「実績作り」だ。

何を目標にどう運動を進めるか?

目標は、参議院議員選挙で、今まで以上の立憲野党の議席を獲得することである。あるいは、大負けしないことである。手法としては、短く分かりやすい言葉で、問題点を伝えること、若者を対象としたSNSの活用も考える。学生には、情報を伝えることが大切である。たとえば以下のような伝え方が考えられる。
・改憲四項目について。①教育の無償化・充実化については、法律で対応できる。財源の問題で言えば、改憲には八五〇億円かかることも訴えていく。②合区の解消は、公職選挙法の改正で対応できる。③緊急事態条項については、政府は何をしてもよいのかと訴える。お金をいくら使っても良いのですか? ④自衛隊明記については、安保条約で日本は守られているのではなかったの? 戦争に対して戦争で対応するの?と問おう。自動隊明記は、戦争の悲惨さを知らない「平和ボケ」の主張である。ウクライナ戦争は突然起こったものではなく、とりわけNATOの東方拡大をめぐる外交交渉がうまくいかなかったことによって起こった事態である。ロシアは、核六〇〇〇発を持っている、核戦争になっても良いの?
・「改憲手続法」について。①CM規制がないので、「金で買われた憲法改正」になりかねない。フランス・スイスでは、CMは全面禁止である。②外国資本への規制がないので、「外国資本に買われた憲法改正」になりかねない。アメリカは、自衛隊が世界で戦うことに賛成である。第五福竜丸事件のあと反米感情の高まりに対して、CIAは、読売新聞や日本TVを使って原発を認めさせるために宣伝した。③インターネットのデマ規制が必要である。森友学園事件で自殺した赤木さんは、立憲民主党の小西議員・杉尾議員に吊るし上げられて翌日自殺したとのデマがDappiを通じて広まった。デマが放置された状況では「デマから生まれた憲法改正」となる。
・アメリカの核を日本も共有する核共有論について。ロシアに核で対抗すれば、核戦争になる可能性が生まれるが、その準備をしてよいのか。攻撃の対象となる原発の存在やサイバー攻撃の危険性もある。戦争の現実を外交の力で止めることが大切である。(また安倍氏は戦略核と戦術核の区別がついていない。ドイツでのソビエト戦を想定した核の米との共有問題は、ソ連が攻めてきたら小型核を国内に落とすという想定だった。ドイツ軍に訓練させていた。小さい核というが、広島型くらいの核爆弾もある。ロシアのウクライナ侵攻もウクライナに戦略核を置くという危険性への対処でもあった。)
・緊急事態条項について。緊急事態の際、権力者が憲法や法を守らず自由に行動することを認める条項である。九条改悪か緊急事態条項かどちらを許したほうがよいか問われたら、九条改悪をとる。九条は戦争するか否かであるが、緊急事態条項は、どうやって戦争をするかに関わっていて、こちらの方がおそろしい。(そもそも憲法で個人の権利と自由を保障し、それに基づいて政治を行なうのが立憲主義だ。緊急事態宣言が出されれば、政府は憲法を護らなくてもよい。憲法二九条では財産権が保障されているが、緊急事態のもとでは土地の取り上げが認められ、補償もされない可能性が生じる。戦争反対の運動や集会結社、言論の自由が否定され、徴兵制が実施される。ドイツでは、もっとも民主的と言われたヴァイマール共和国がヒトラーに壊されたのは、ヴァイマール憲法四八条緊急事態条項の存在であった。)
・GDP比二%以上の防衛費の増大について。二〇一四年安倍政権は、アメリカから武器を爆買いした。その一つグローバルホークは、無人偵察機であったが、陸・海・空三軍が押し付けあい、いまは航空自衛隊が所有している。しかし陸上の探査にしか使えず、イラク・アフガン戦争で使われた代物である。イージス・アショアもその例である。六月三日、『東京新聞』の記事、一兆八〇〇〇億円で大学授業料は無料となる。四三〇〇億円で学校給食費が無料となる。コロナ禍で女性の貧困が深刻とも書かれていた。軍事費は無駄使いだ。
・国民投票について。国民投票は、国民の意思を聞くためのものではなく、権力者がその地位や権力を正当化するために使われる。ナポレオンやヒトラーの独裁を支え生み出したのは、国民投票である。ナポレオン一世三世は、国民投票で皇帝になった。ヒトラーの独裁を生み出した制度的要因は、国民投票法である。
いずれにしても大小の集会を開き、参加者に情報を伝え、そこから拡散してより多くの人に改憲の危険性を伝えることが大事である。参議院選挙は、国民投票をさせないための鍵となる。「憲法改正」国民投票が行なわれるのは、いま国民投票にかければ勝てると政府が判断したときである。そうさせないためには、参議院選挙への取り組み、短い言葉での働きかけが大切である。
【まとめ=阪上みつ子】
(『思想運動』1078号 2022年7月1日号)