HOWS講座報告
沖縄への自衛隊配備から五〇年
日・米の対中国軍事戦略と沖縄、尖閣・「台湾有事」

伊波洋一(参議院議員)


 十一月十六日のHOWS講座は「沖縄への自衛隊配備から50年――日・米の対中国軍事戦略と沖縄、尖閣・『台湾有事』」をテーマに、伊波洋一参院議員を招いた。伊波議員は七月の参院選で二期目に再選されたばかり。国会では高良鉄美参院議員とともに会派〈沖縄の風〉を構成し、外交防衛委員会で奮闘している。「南西諸島で起きている基地強化の意味を話したい」と始まった講演を、質疑での応答と合わせて要約した。なお約一時間半に及んだ講演の全体についても伊波さんの了解を得てぜひ活字化し紹介していきたい。
【編集部】

 南西諸島の軍事要塞化が進んでいる。安倍政権の解釈改憲による集団的自衛権の行使と「平和安全」法制が作り出した〈戦争をする日本〉がまさにそこにある。尖閣防衛を理由とした「南西シフト」は、じつは最初から「台湾シフト」である。尖閣を持ち出せば国民感情としてはわかりやすいが、尖閣のために奄美にミサイル基地を作ったり、佐世保の近くに離島奪還部隊を置く必要はない。一九七二年の日中共同声明も、七八年の日中平和友好条約でも尖閣の領有については棚上げになった。アメリカも日本も中華人民共和国と台湾は一つであることを認めて中国と国交回復している。日中平和友好条約がある中で戦争を準備しているということ自体が大きな問題だ。日本を戦場化するものだし、アメリカはそれを狙ってもいる。

「台湾有事」が「日本有事」になる

 今年一月七日の日米外務・防衛閣僚協議で合意した「台湾有事」での日米作戦の概要は、
 ①中国軍と台湾軍の間で戦闘が発生し、放置すれば日本の平和と安全に影響が出る「重要影響事態」と日本政府が認定した場合、
 ②初動段階で米海兵隊は自衛隊の支援を受けながら鹿児島県から沖縄県の南西諸島に臨時の攻撃用軍事拠点を置く。
 ③軍事拠点候補は、陸自ミサイル部隊がある奄美大島、宮古島や配備予定の石垣島を含む約四〇の有人島。
 ④対艦攻撃ができる海兵隊の高機動ロケット砲システム〈ハイマース〉を拠点に配置。自衛隊に輸送や弾薬の提供、燃料補給など後方支援を担わせ、空母が展開できるよう中国艦艇の排除に当たる。事実上の海上封鎖になる。
 米海兵隊による日本領土からの中国艦船への攻撃は、日米安保条約の上では事前協議が必要だが、「平和安全」法制が成立した二〇一五年以降は日本政府が「重要影響事態」と認定すれば事前協議は必要なくなり、米軍が日中戦争の引き金を引くことができるようになった。
 遠征前方基地作戦(EABO)は、南西諸島から中国艦船をロケット砲で攻撃することを想定している。「台湾有事」が「日本有事」になる。島々の空港や港湾を軍事拠点として確保することが必要不可欠だ。そのために土地規制法も作られた。自衛隊基地・米軍基地の周辺一キロを規制するだけでなく有人国境離島を規制できる。
 いま現在(十一月十日~十九日)日米共同軍事演習「キーン・ソード23」というものが全国の演習地で行なわれている。自衛隊が約二万六〇〇〇人、米軍が約一万人参加して、日米あわせて約三七〇機の航空機と三〇隻の艦艇を使用し、北大東島射爆撃場では精密誘導弾や艦砲、ロケット砲などの実弾射撃を実施する。主要なテーマが「台湾有事」とそれに対する日米の戦いだ。そこに使われているのがハイマースというウクライナでアメリカが提供しているロケットミサイル。ウクライナでは射程八〇キロのものだが、何百キロも飛ぶものがあるし沖縄ではたぶん射程三〇〇キロくらいのを使う。
 このハイマースを積んだ車両ごと大型空輸機で運んできて、降ろして発射するという訓練だ。兵員はオスプレイやヘリで運んできて、訓練だから実際には発射しないけれど発射したとしてすぐ移動する。空輸機は中国のレーダーにひっかからないよう低空飛行して島を越えていくような訓練をやっている。
 二〇一二年暮れからの安倍政権の約八年間でやった安保法制の制定=集団的自衛権への踏み込みは全部こうした戦争準備と絡んでいる。二〇一七年の時点では沖縄本島以西に自衛隊の実働基地はなかった。それが一八年、長崎県の佐世保に陸自水陸起動団、二〇二〇年、静岡県浜松に空自のレーダー監視を行なう警戒航空団。宮古島に陸自の地対空ミサイルと地対艦ミサイルを配備。二一年にオスプレイを木更津の陸自駐屯地に暫定配備。二二年だけで一一の基地や部隊ができ熊本でも電子戦部隊とか地対艦誘導部隊が新たに作られた。それ以前からを含めると一九。すべてが台湾有事に向かっている。

制限戦争の危険

 一九九七年の米国防委員会報告は二〇一〇年から二〇年の間に日本の米軍基地は役に立たなくなると見通した。中国のミサイルが届くのですぐやられる。佐世保とか横須賀、横田、嘉手納の基地は有事になったら役に立たない。では前方展開しないで米軍の軍事力をどう運用するかということが課題となり、エアー・シー・バトルという戦略が出てくる。二〇〇五年に合意された〔日米同盟未来のための変革と再編〕で沖縄の海兵隊のグアム移転が提起され、二〇二四年から沖縄の海兵隊はグアムやハワイ、オーストラリア、米本土に移っていく。そうした中で海兵隊に替わるものとして自衛隊の水陸起動団ができあがってきた。アメリカの考えている非対称戦争とは米中全面戦争や核戦争に発展させない制限戦争を同盟国に行なわせることだ。相手が核を使いたくなるような戦争はしない。
 二〇一〇年ごろまでのアメリカの対中国戦略は内陸まで縦深攻撃するというものだった。しかし、米中全面戦争になれば中国が核弾頭ミサイルを米本土に撃ち込むかもしれない。それを避けるため中国本土攻撃は回避し、台湾の米国覇権を重視するようになった。南西諸島、とくに宮古島や石垣島に陸上自衛隊の地対艦ミサイル部隊を展開し、中国艦船を東シナ海に閉じ込め、台湾への太平洋側からの攻撃を封じる。日本に制限戦争を行なわせて、その間に中国に台湾をあきらめさせる。
 二〇一三年に出てきたオフショアコントロール戦略は、台湾を含む第一列島線(九州―沖縄―台湾―フィリピン)で同盟国に戦わせる。アメリカ軍は第二列島線(本州―グアム―パプアニューギニア)より東に下がる。オフショア戦略では中国領土を攻撃せず、インフラを破壊しない。紛争後の世界貿易を損なわないわけで、世界経済は中国の繁栄に依存している現実を反映している。やられるのは中国と交戦する日本と台湾だ。現在はまたちょっと違って、中国が強大になってきたから叩きたい。日本と台湾が盾にされるのは変わらない。それで中国の力を殺いでくれればありがたい。
 これに対応して核戦争にはならない打撃力を日本は持たなければというのが敵基地攻撃論の発端だ。アメリカが戦わないなら日米安保は何のためだという話になりかねない。二〇一五年の日米ガイドラインでは米軍は自衛隊の作戦を支援し補完するとした。二〇一七年、米空軍が提唱した[機敏な戦力展開](ACE)は、最新戦闘機と補給・整備などの支援ユニットがセットの小規模な部隊編成で第一列島線から撤退し、中国のミサイルの射程圏外に出る。戦力を分散し第二列島線の島々を拠点にして米軍はアウトサイド部隊として展開する。前述した遠征前方基地作戦(EABO)、海洋圧力戦略(二〇一九年)である。日本の領土から米軍が中国艦船を攻撃すれば日中関係は敵対関係になり、日中平和友好条約は破棄され在日米軍基地や自衛隊基地は攻撃される。日本が戦争を仕かけるのと同じ仕組みをアメリカが勝手に作り上げたのが今の状況だ。
 日本をやられ役にして米中は手打ちというのもありえるだろう。「平和安全」法制は海外で戦争をするという以上に日本を戦場化するものだ。日本の貿易総量のうちアメリカとは一四・七%だが日中間は現在二六・五%。日中貿易が止まれば日本の経済や食料調達に甚大な影響を及ぼす。戦争に何の利益もない日本がむざむざ乗せられてはならない。アメリカは核戦争を避けるために全面戦争をしない。ならば日本も日中戦争を避けるために「台湾有事」でアメリカに在日米軍基地や日本領土を使わせてはならない。戦争ではなく外交で中国との平和友好を継続しよう。
(まとめ=土田広樹)
(『思想運動』1083号 2022年12月1日号)