HOWS講座報告より
ウクライナ事態、政治解決しか道はない
富山栄子(国際交流平和フォーラム)

以下は三月十四日のHOWS講座「ウクライナからインド太平洋戦略へ――グローバル化する米軍事戦略」での富山栄子さんの報告の一部。富山さんのウクライナ事態政治解決の訴えは、ドンバスの自治権保障のための紛争当事者間の交渉による憲法改正で合意したミンスク2の路線にも適うものであり、何よりも停戦による交渉再開を求めている。
                                          【編集部】

二〇一四年にもウクライナを論じたが


わたしは、ウクライナについて八年前の二〇一五年春に「ウクライナ:グローバル戦争の引き金か?」という時評を『社会評論』から原稿依頼があって書き、その前年の二〇一四年に起きたことについて論じています。非常に衝撃的な事件が起きましたが、日本のマスメディアはあまり騒ぎませんでした。
二〇一三年、EU加盟についてウクライナでは議論が分かれ、当時のヤヌコヴィッチ大統領は「加盟しない」と表明していた。これに反対して何か月も街頭の「抗議行動」が続いて二〇一四年二月に事態はクーデターにまで発展し、暴力的事件が起きました。選挙で選ばれたヤヌコヴィッチ大統領を辞めさせ、ポロシェンコ氏が大統領に選出されました。内戦が激しくなったのもこのときです。ドニエプル川の東側にはロシア語を話す住民が住んでいますが、ポロシェンコ政権は差別政策と軍事的攻撃を始めたのです。
同年の五月にはオデッサという町で虐殺事件も起きました。「右派セクター」と言われる集団が労働組合の会館に火を放って、窓や出口から逃げようとした人びとを銃撃し、四〇~五〇人くらいが殺害されました。このとんでもない事件は日本では小さな記事でしか扱われませんでした。
七月には、マレーシア航空MH17便アムステルダム発クアラルンプール行きの飛行機が撃墜され、乗員乗客全員が死亡するという事件がドネツクの上空で起こりました。現場は村の郊外で、陸上で犠牲者は出ませんでしたが、田園地帯に墜落しました。航空機の撃墜事件の調査は非常に不自然に行なわれました。そもそもこの頃はすでにドネツクやルガンスクでは内戦状態でしたから、普通、商業機は紛争地帯をなるべく通らないのです。ところが、ウクライナの航空管制官がドネツクの上空を飛行するよう指示を出しました。そのことも不思議です。同日には、ブラジルからロシアに帰国するプーチン大統領の専用機が二〇分か三〇分前に、似たルートを通過していました。
こうした二〇一四年のできごとは非常に危ない側面を持っていて、もしかしたらグローバル戦争へと発展しかねないと思い、『社会評論』に書く機会をいただきました。ただ、このときはまだミンスク合意が半分生きていて、分離独立ではなくて自治の拡大で終わるのではないかと見ていました。

ユーロマイダンは「革命」か?

ソ連邦解体、そして独立後は、新自由主義的支配によってウクライナ市民の生活は困窮しました。ウクライナは農業国です。ウクライナにおける穀倉地帯の農地をアメリカのカーギルなどアグリビジネスが獲得して中小の農家・農村は解体されてしまいました。いわゆる財閥もできました。つまり、国有財産を民営化することによって蓄財する人が出てきました。わたしの『社会評論』に掲載した記事にあるイゴル‐コロモイスキーという資本家も国有財産を奪った人で、現ゼレンスキー政権を支え、財政的基盤を提供してきています。
二月の騒動は一般には「ユーロマイダン革命」と言われています。しかし、「革命」というのは、多くの人に幸せをもたらすときに革命と言えます。たとえば字を読めなかった人が読めるようになる、農地を所有できなかった人が農地をもらう、失業者だった人が雇われるといった肯定的あるいは進歩的な内容があって初めて革命と言えるわけです。その意味で、「革命」という表現は正しくありません。

グローバル戦争と化したウクライナ事態・

二月二十四日のウクライナへのロシア軍の侵攻を受けて、東部労組がすぐに反戦行動を水道橋の駅頭で行ないました。その行動の素早さに驚きました。命が粗末にされることに対して傍観者であってはいけないという立場で、労組が軸になって行動することに共感しました。ウクライナの状況がグローバル戦争を引き出す一つのきっかけになるだろうと不安をもったのは二〇一四年のことです。現在報じられている事態は去年の二月二十四日に突然ロシアが始めたことではなくて、前々から進行していたことです。そして、現在、ウクライナの事態はグローバル戦争になりました。たんなるウクライナとロシアの二国間戦争にとどまりません。まずドイツが紛争当事国には武器を送らないという原則を放棄し、ウクライナに武器を送っています。日本もいちおう憲法の縛りがありますから武器を輸出するということはしていませんが、輸送機を送り情報提供など協力しています。伝統的に中立政策のスウェーデン、フィンランド、オーストリアも揺らいでいます。
あるいは、対ロシア制裁によってエネルギー価格が上がって、フランスでは今年の冬に電気代などエネルギーコストが二割以上も上昇しています、ドイツも同じです。穀物や肥料が十分に輸出できない、つまりウクライナもロシアも穀物と肥料の輸出国で、これが自由に貿易できないということで食糧価格も上がっていて、多くの国の市民生活を直撃しています。とりわけ欧州はロシアから天然ガスをたくさん買っていましたから、サプライチェーンが変わることによって米国から液化天然ガスを買っています。しかし、それはロシア産のものより四倍も高いのです。エネルギーコストが上昇してドイツ企業が米国に移転することも起きています。
このようにウクライナ危機は二国間の領土支配という問題ではなくて、より大きな枠組みでの経済戦争、その経済戦争を正当化する世界規模の情報戦争になっていると見ていかなければいけないと思います。

安倍政権より危険かもしれない岸田政権

日本政府に関しても、二〇一四年当時は安倍政権でしたが、この時点では「ウクライナの政府とドネツク・ルガンスクの住民たちはミンスク合意を守って自制すべきだ」という立場で、武力紛争の当事者のどちらかの側につくという態度はとっていませんでした。しかし、現在の岸田政権は武装紛争当事者の一方につくという状況になっています。そして、安保三文書を改定して「敵基地攻撃能力=反撃能力」を保有するなどその戦争政策をますます苛烈化しています。
わたしたちは非常に危険な状況のなかに置かれています。日本国内での世論を着実に強めて、政府に戦争をさせない方向にもっていかなければいけないということを強く感じます。そういう意味で岸田政権は安倍政権より危険かもしれません。「敵基地攻撃能力=反撃能力」は先制攻撃も選択肢に入ります。このことは非常に危険ですし、健全な世論を作って止めないといけないと考えています。
岸田政権の政策の根底にあるのは「中国脅威」論です。しかし、本当でしょうか。
昨年十二月に就任した中国の秦剛外相が、最近、記者会見で意見を述べています。秦剛外相は「現在の中国の経済の発展、一四億人が住む国を近代化するというのは歴史的なことだ」と言いました。これまで歴史上なかったことをなぜ中国ができたかについて、いくつか理由をあげています。中国が独立したこと、人民が第一であるという政策をとってきたこと、戦争をしないで平和的に発展してきたということ、などです。日本を含むいわゆる「先進国」はそのすべてに植民地がありました。イギリス、フランス、オランダ、スペイン、ポルトガル、イタリアに加えて、後続の北米や日本もです。いわゆるG7に入っている国はすべて他国の資源を収奪して住民を殺戮し、国を奪ってきた歴史をもっています。
しかし、中国は平和的に発展してきたのです。

政治解決のほかに道はない

ウクライナは多民族国家です。ガリツィア地方はポーランド系の人が多く、ルーマニアと接するドニエストル川のあたりではモルドバという国が独立しています。ルーマニア系の住民が住み、東部のドニエプル川の東側は歴史的にロシア人が住んでいます。だから連邦制のような形態でしか国はまとまりません。しかし、二〇〇四年の「オレンジ革命」、二〇一四年のクーデター以降、キエフ政府はウクライナ民族主義を全面的に出しています。学校教育でロシア語を禁止する、ロシア語の出版物も、音楽やオペラもロシア語では駄目という、偏向的な民族主義でウクライナを統治することはもともと難しいのです。ですから、いまある法律をある程度変えることがなければ、ロシア系住民の反発は収まりません。その意味で政治的解決をしていかなければなりません。
とにかく停戦して、交渉によって政治的に問題を解決する、それ以外には道はないと思います。

(『思想運動』1087号 20234月1日号)