HOWS講座報告
ゆらぐ水の安全と公共性

PFASと水道行政の分割移管・民営化路線
菖蒲谷眞一(全日本水道労働組合書記次長)

 六月七日のHOWSは、全水道労組本部書記次長の菖蒲谷眞一さんを講師に招き、発がん性等が指摘される有機フッ素化合物PFASと水道行政の移管および民営化路線について労働組合の立場からの話を聞き意見交換した。菖蒲谷さんは東京にきて六年。出身の鹿児島市水道局では水道・下水道の仕事に携わり、四〇年近く水道事業に携わってきた。【編集部】
 
 蛇口の向こう側で
  
 水というのは蛇口から普通に出ますよね。蛇口の後ろでだれかが水を作っているわけではないと思うでしょう。東京都の水は、ぼくが二〇代のころは臭いがすごくて、とても飲めたものじゃなかった。そこからオゾン処理とか相当の技術開発をして、いまの水が出ている。東京には六年住んでいますけど、水を買ったことはなくて蛇口の水を飲んでいます。一五、六度まで冷やすと、水道水っておいしく感じるんです。沖縄とか、鹿児島でいうと与論島とか奄美大島はサンゴの関係で水が硬い、カルシウムが高い。沖縄の浄水場には水を軟らかくする装置もあり、いろいろ技術を開発しておいしく飲めるような努力がされています。
 日本の水道の水質基準は、世界でいちばん厳しいです。検査項目が五一項目あり、これを確実にやらないといけない。しかし五一項目の中に、PFASは入っていません。もともと自然界に無かったものなので、検査する必要がなかったんです。
全国の水道施設は、更新の時期がきています。わたしの出身の鹿児島市水道局の水道管を一本につなげると、日本を縦断します。東京だと、地球半周分以上になる。それがじつは皆さんの資産です。水道局は会社ではないので、水道施設は市民・都民の持ち物という感覚でいていただければと思います。水道管の交換は、普通に全部やると一三〇年以上かかります。パイプの耐用年数は長いもので六〇年なので二回まわって入れ替える。水道管に問題がなければ使っているのが実際です。
 日本は梅雨があるから水が豊富かというと、実はそんなに豊かではない。雨が一か月降らないと渇水になる。去年の十二月から今年の一月、二月にかけ、高知では渇水に対する準備をしている。また厚生労働省が定めた水道水の有効率は九五%、それだけ有効利用しなさいと事業者に示されている。つまりそれくらい漏水率を低くしています。
 水が乏しいため日本の水道の有効(に活用する)率は高いが、それがほぼ達成できるのは、受け皿になる行政の公の力が現場に直接、影響することがまだできているからです。大都市での漏水修繕は大変なことで、バルブを閉めて止めればいいのではなくて、閉めて濁る場合もあるので、周りに影響させないように一定の知識や経験値が必要になる。それもこれまでは公の人たちががんばってきたところがあります。

公務現場を守る
 
 水道事業では、PPP/PFI(Public Private Partnership/Private Finance Initiative)という官民連携の話が進んでいます。水道施設の更新にはどうしてもお金がかかるので、それを補うために国の生活基盤施設耐震化等交付金があります。交付金を得るためには来年度からPPP/PFIの民間提案を受けなさいと、国は圧力をかけてきています。たとえばコンセッション方式(施設の所有権は公共主体のまま、運営権を民間に設定)のように、民間事業をどこかに入れないといけない。どの程度ならOKかはまだわかりません。対象は計画給水人口一〇万人以上、全体の事業費が一〇億円以上。
 一方で、来年度から水道の所管が厚労省から国土交通省に移管されることになっています。でも水質基準が変わるわけではなく上が変わるだけで、現場の水道局はなにも困らないんです。水質検査を環境省がやるというのは環境分野の検査で、水道の水質検査は厚労省からそのまま国交省にいきます。日常業務や利用者に直接的な不便は出てきません。ただ下水道は官民連携が上水道よりずっと進んでいます。上水道の管轄が、下水を管轄する国土交通省に移ることによって、上水道の官民連携の歯車が下水に引っ張られるように動き出す可能性がある、ここがいちばん問題なんだと思います。
 じつは労働組合としては、水の統治は水のサイクルから考えると一つにするのがいいというとらえ方です。水道水、河川水、農業用水など水はぜんぶ縦割りで管理されていて、それは行政としてどうなのか。だから上下水がいっしょになる所管変えは、水サイクルが少しいい感じになるのかなと思いつつ、お金の話がついてくると民間活力をどんどん入れて、最終的には民間でやりなさいよ、という臭いがどうしてもしてしまう。
 東京の場合はすでに外郭団体にいろんな仕事を出しています。でも直営だったときの公の人たちの水処理をする経験値や知識がなくなって、業者の言いなりになってくる。それで東京都水道局は、労働組合が一生懸命がんばって、直営の職場を取り戻してきている。言いなりにならないよう、職員に経験値を積ませなければならないということを東京都の水道当局もようやく理解したのかと思います。小さな一歩で、取り返さないといけないところはまだあります。水処理は人材が育たないと難しい、そのことがとても大事になってきています。
 ところで民間に出したら支出が抑えられると信じられてきたんですが、検証されたことがなかった。でも総務省がさいきん、民間に出して対費用効果が得られたと大きくは見られない、という見解を出しました。それが東京都の現場を取り戻す動きにつながっているのかもしれません。人材をどれだけ育てるかというのは、その事業にとって生命線です。市民、利用者の皆さんといっしょに学習しながら取り組んでいけば、少しずつ変わっていくと思います。
 
沖縄の深刻さ

 PFASは、環境で分解されず永久に残る、しかも蓄積性があって発がん性リスクも指摘されています。水質検査項目になく義務づけがないので、それ以前に検査をしたことはなかった。
 嘉手納基地だけでなく普天間基地周辺の水質検査でもPFASが出ています。ですから発生源は米軍基地しかない。大阪でも出ていますが、原因は企業なので行政指導なりで止められます。沖縄の場合は米軍基地に入ることができない。なぜ米軍基地から出るかというと、何度か誤って泡消火剤を流出させたということはありましたが、撥水効果や油をはじくことから、戦闘機を洗ってコーティングしているのではないかとも言われています。
 北谷浄水場は川とダムが取水の水源です。比謝川、長田川、嘉手納井戸群など、みんな高濃度のPFASが出ています。これらと北谷浄水場との真ん中に嘉手納基地があり、基地を取り囲むように水源と水処理をする浄水場とがある。
 二〇一六年一月、沖縄県企業局はPFASの一種であるPFOSが高濃度で検出されたと発表しました。水質検査項目に入っていないため、日本では基準値もない。当時、北谷浄水場自体の平均汚染度は、国のPFAS暫定目標値(二〇二〇年度に設定)の五〇ナノグラムをぎりぎり下回るくらいでした。
 水道の現場に勤めている人間にとっては、もともとないものが出だすのだから腹立たしい、アウトですよね。これを処理するために活性炭を入れて吸着させるんですが、活性炭の入れ替えにはめちゃくちゃお金がかかる。沖縄県が二〇一六年に出したのが年間約二億円。それは収入である水道料金から出るわけですが、一三〇年かかる施設更新にそれだけ回せなくなるわけです。活性炭に取られちゃって。発生源を止められなければ、ずっと活性炭で処理をしなければならない。この二億円は現在は防衛省が肩代わりをしています。だけどそうしたところで税金ですからね。もともとそういうものを出しちゃいけない。調べるにも日米地位協定のために基地に入れない。沖縄企業局では調査のための立入許可申請を沖縄防衛局に出していますが、ぜんぶ突っぱねられています。

根絶を阻む壁

 沖縄の故・照屋寛徳衆議院議員が、当時の河野太郎外相に日米地位協定の環境補足協定について尋ねています(二〇一九年六月十八日、国会安全保障委員会)。米軍基地への立ち入り手続きは、(環境に影響を及ぼす事故が)「現に漏れているということが発生をし、米側から、情報提供を端緒として実施されるもの」。沖縄の事案が「環境補足協定が想定しているような環境に影響を及ぼす事故に該当するかどうかについては、今後得られる知見を踏まえた上で検討する必要がある」と答弁をして、立ち入り調査の実施はアメリカ側の「考慮」(日米地位協定第三条)次第であると認めている。いまは国会で会派・沖縄の風ががんばってくださっています。
 沖縄はダムがいくつもあるので、ダムの融通をうまくやると比謝川などから水を取らなくても済むようになります。ただこれもむちゃくちゃお金がかかります。血管をあちこちつなげて北谷浄水場に行く、みたいにするわけですが、いまはだいたいできて、ぼくが確認した時点では数値が四ナノグラムまで落ちていた。だがそれでいいという話ではない。国会の岸田さんたちは数値が下がったからいいだろうというかもしれないが、とにかく根源を絶つことなんですよね。
 北谷浄水場のなかには浄水処理施設のほかに、海水淡水化センターもあります。海水から一日に四万立方メートルの淡水を作れるんですけど、これもむちゃくちゃお金がかかるんです。一立方メートルあたり二九〇円近くかかる。その海水淡水化の水とダムの水とを使うことでいまの水準を保っている、沖縄の利用者に負担がかかっているということです。
 数値が五〇ナノグラムを越えていたころもありました。わかってはいるのですが、沖縄は水が乏しく、ダムの水を極端に使うとダムの水位はどんどん下がるので、最終的には川の水を取らないといけない。言い方は悪いですが、そのバランスを取りながら水をつくっていたのが現実です。そんな水は出したくない、現場の人間にとっては悔しいですが、じゃあ止めていいという話にもならない。
 沖縄のことに詳しいジャーナリストのジョン‐ミッチェルさんは、PFASが下水からも出ていることを指摘しています。鹿児島では下水の汚泥を肥料に変えて自然サイクルを生かした事業をしているんですが、もし仮にPFASが出るところで水処理をして残った汚泥を肥料に変えたとしたら、PFASはそこに残る。そしてたい肥から野菜に入っちゃうんですよね。だからPFASというのは根源を絶たないといつまでたっても回り続ける、それは恐い話です。

対立ではなく共闘を
 
 沖縄県企業局にもわれわれの仲間の組合があります。北谷浄水場で仕事をしている組合員もいます。PFASが出ることへの市民の怒りの矛先は、もちろん沖縄防衛局には向くんですが、やはり現場にもくる。「こんな水、出して!」という気持ちは感情論としてぼくも理解します。だが現場では「ここまでいわれて」という思いが出てくるでしょう。
 起きることは市民の分断なんですよね。それはしたくないし、されたくない。われわれもまた国に働きかけていく。防衛省を通じて米軍基地をどうにかしなきゃいけない、という方向に沖縄だけでなく、全国みんなの意識が向いてくると少し変わるのではないかと思います。
 辺野古新基地が造られたとしたらやはり泡消火剤を流すでしょう、ぼくはそうとしか思えない。もしそうなれば直接的に海に汚染が行くという問題もあります。自衛隊基地でも出ている。水源との関わりがないとしても環境には影響があるので、いつどういう形で汚染がくるかわからないから行政指導が必要でしょう。だが米軍はどうにもならないのが現状です。
 東京でも出ていて米軍横田基地由来じゃないかといわれています。東京都のホームページにはPFASの暫定目標値を下回っているので大丈夫とコメントされていますが、現場の人たちはそうは思っていないので、理解していただけたらなと思います。一でも出ていたら問題で、出したくない。止められるものなら止めたいです。それが現場の本音です。
 沖縄の企業局で働く人たちは、戦後間もないころや、(ベトナム戦争時の)枯葉剤の話も聞いていますが、相当、努力されていると思います。そこで責められると、気持ちはわかりますが、現場の人たちは反戦反基地運動や市民運動にも取り組んでいますが、嫌気もさすでしょう。運動の分断にならないように理解していただけたらというのがわたしの思いです。
 なぜ沖縄がPFASの検査をしたかということですが、世界でPFASが規制されたときに沖縄県企業局は検査機器を導入しました。機器は入れても技術がない、その数字が正しいのかもわからない。機器が先であって、基地から垂れ流されていることへの疑いがあって検査を始めたわけではなかった。
 日本政府はアメリカには弱腰であるということと同時に、国民の命を相当軽く見ているのかなと思っています。ほんとに放っておけない話ですよ、飲み水のことだから真っ先に動かなければならない。子をもつ親はいちばん最初に情報がほしい。異次元の少子化というなら、異次元の環境対策をやってほしい。
 労働組合として現場を見るということは、けっきょく全部そういうことにつながっていきます。下水の現場ではこのあいだ、酸欠で倒れて亡くなった方もいますが、それらも含めて自分たちの職場の安全を守ることは、命の問題にかかわります。人の命を考えて職場の環境を整えないと問題が起きる、という取り組みも最終的には政治的なところにつながっていく。今後も市民の皆さんと労働組合が手を取り合って取り組めたらいいと思います。

(『思想運動』1090号 2023年7月1日号)