HOWS講座報告
明真南斗『琉球新報』記者が「沖縄と戦争」を語る
「民主主義」はどこにもない!

 2024年12月18日のHOWSでは、『琉球新報』で平和問題についての記事でいつも名前をお見かけする明記者を迎えて、貴重な学習の時間を持つことができた。

自南西諸島の自衛隊配備と安保3文書

 最初に、南西諸島への自衛隊配備の問題が取り上げられた。2016年の与那国島を皮切りにして2023年の石垣駐屯地の建設まで、鹿児島県奄美大島、宮古島などを含めて自衛隊基地の建設が進んだ。さらに22年末に改定された安保3文書では、スタンド・オフ・ミサイルを配備し、弾薬庫を設置して、実戦に向けた抗担性(攻撃に耐え回復する能力) と継戦能力が強調された。沖縄戦を想起させる。自衛隊のシンクタンクである防衛研究所の報告では、アジア地域に駐留する米軍・自衛隊の軍事力では中国軍に負けるので世界各地からの米軍の応援を待ち、半年・1年かけて勝利することが想定されている。その間、九州への先島諸島の住民12万人の疎開が想定されているが、沖縄戦の経験からも交戦中の疎開は、多数の犠牲者を生む。

沖縄の軍事要塞化と増大する住民の負担

 エマニュエル米大使に沖縄の基地負担軽減について質問したが、大使は、「これは負担ではない。インド太平洋を守もるための責任だ」と言い切った。驚いて翌日の新聞に記事にした。残念ながら同時に取材した他社で記事にした新聞は一つもなかった。
 沖縄戦は軍人の犠牲者数に対して一般県民の犠牲者が多かった。本土防衛の時間稼ぎのための地上戦の継続がその原因である。日本軍による食料強奪、住民殺害、自決の強要による犠牲者が多く、沖縄では今日まで「軍隊は住民を守らない」と言い伝えられている。沖縄戦後、米軍基地は住民からの土地の強奪などによって建設されたが、復帰後も「本土」から米軍が移動させられ基地は拡大した。米軍政下にあった沖縄への基地の移設は、軍事的目的ではなく政治的理由によるのだ。
 あまり知られていないが、沖縄は米軍の訓練空域が広く、沖縄周辺の水域では27か所、九州の1・3倍、空域では20か所、北海道の1・1倍の広さになっていて、使い勝手が良い訓練の場になっている。

県民投票と民主主義

 県民投票は、多くの労力を要する。署名運動を立ち上げて、投票所を設定する必要がある。沖縄では、2回の県民投票が実施された。1996年には日米地位協定の見直しと在沖基地負担の軽減を求めて実施され、89・09%の賛成を得られたが、その後地位協定は1文字も改定されていないし、基地負担の軽減もない。2回目は、辺野古新基地建設だけに焦点をしぼって2019年2月24日に行なわれた。投票は、反対・賛成・どちらでもない、の三択で実施された。7割の人が反対票を投じる結果となったが、工事はどんどん進められている。ひどかったのは、まだ県民投票の実施前から投票の結果に関係なく工事が進められたことである。民主主義とは何か! と言わざるを得ない。
 沖縄県は全基地の撤去を要求していない。玉城知事も翁長前知事も、せめて新基地建設はやめろと言っている。倫理学の思考実験にトロッコ問題がある。そのままトロッコが進んでいくと、線路に横たわる5人が亡くなり、ポイントを替えると1人が亡くなる、どうするべきかという問題である。辺野古新基地建設の問題は、住宅密集地で周辺に学校や幼稚園がある普天間飛行場から、人口の少ない名護の東海岸に基地を移すということであり、どちらかを選べと県民に迫っている。われわれが住んでいるのは現実社会であり、そこでは二者択一はない、どちらも助かる方法を探るのが、政治の役割ではないか。

2つの質問と回答

 一質疑応答の時間でも明さんは、丁寧に疑問に答えた。
 ――八重山諸島の市長に自衛隊誘致に積極的な人物がなり、名護市長選でも辺野古新基地建設反対の市長候補者が破れている、どうしてか?
 国会議員選挙や知事選挙では、新基地建設反対の候補者が当選しているが、市町村単位の選挙では新基地建設が争点にならず、経済や身近な生活、地縁・血縁で投票行動が左右される。与那国では、人口減少対策として自衛隊誘致が進められたが、ミサイル配備や全島避難の計画などがあり、こんなはずではなかったと言う声があがっている。地方にある人口減や経済的困難の存在こそが問題だ。
 ――辺野古新基地が建設されれば、本当に普天間飛行場は返還されるのか?
 米軍基地の幹部は、この間の意見交換の場で、軍事的な防衛の観点から言えば、普天間を使い続けた方が良い、許されるのであれば両方使い続けたいと本音を語り、防衛省が火消しに走った。新基地の建設について、政府は、23年1月を起点にして12年かかると言っているが、はや遅れが生じている。仮に完成したとしても、これまでの経緯からしてアメリカがすんなりと普天間の返還に応じるかどうかは疑問である。防衛省も返還の時期を決めていない。

いかにして平和を勝ち取るか?

 「沖縄の負担は仕方ない」という論調をめぐっては、会場から、そうした見解が出てくる原因は、朝鮮・中国脅威論の報道にあるとの意見が出された。日本が攻められるという不安が煽られ、思考停止状態を生んでいる、それが沖縄の負担容認につながっている。明さんは、中国も軍拡を続けており台湾を囲む形で演習を行なっていることは事実だが、日米が同じことをやったら、近くに住んでいる沖縄の人々はどうなるのかが重要である、中国に対してもアメリカに対しても、戦争を起こすなという主張をするように日本政府に求めていくと話した。
 『琉球新報』の愛読者であるわたしは、なぜ中国が台湾を包囲する形で演習を行なったかを問題にしたい。24年10月に就任した台湾の頼総統は、10月10日の演説で、台湾と中国をそれぞれ「中華民国」・「中華人民共和国」と呼び、たがいに従属関係にあるわけではないと述べた。さらに12月には、親台湾の太平洋諸島を歴訪、途中でハワイ・グアムに立ち寄った。いずれも米国のアジアにおける軍事拠点である。習近平の主張は、基本的には台湾の平和的統一であるが、独立への動きに対しては、軍事力を持ってしても容認できないとしている。この間の頼総統の動きは独立への志向を示しており、中国としては黙視できず軍事演習を行なっている。日米帝国主義の戦争策動と対決し、沖縄の基地撤去に向けての闘いが重要と考えている。
 『琉球新報』は、ファクトチェックをして、朝鮮が発射するミサイルと衛星を区別し、韓国の衛星との政府の扱いの相違を報道している数少ないメディアであることを付け加えたい。

【阪上みつ子】
(『思想運動』
1109号 202521日号)