プレ企画 報告= 白宗元さん(歴史学博士)
米韓合同軍事演習に対峙する朝鮮はいま
「独自制裁」発動後に平壌と開城を訪ねて


 いま、安倍政権のおしすすめる戦争政策に反対し、安保法廃止要求、反原発運動などが各地で取り組まれている。しかしそのなかで、「朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮)みたいな独裁国になったら嫌だ」とか「朝鮮が原発にミサイルを撃ち込んできたらどうする」などの声が聞こえる。「だから、朝鮮のような国から日本を守るために、安保法も必要だし、潜在的核保有で威嚇する必要があるんだよ」という政府の「朝鮮脅威論」を、結局のところでわたしたちはぶち破れておらず、戦争遂行体制づくりの最も強い「根拠」として機能することを許している。
 そもそも上記のような朝鮮に対する「認識」の理由となった情報はどんなものだろうか。マスメディアがいよいよ政権のメガホンになっているいま、その内容は精査を要する。白宗元さんの話は、そのために欠かせない視点をわたしたち日本人に提起するものだった。以下に、講演要旨をまとめた。
 今年三月七日から四月三十日まで(講演当日)、米韓合同軍事演習が行なわれた。これまで六〇年間毎年強行されてきたが、今年は史上最大規模の核攻撃演習だ。「演習」とは、いつ戦争になってもおかしくないもの。盧溝橋事件を思い返せば、中国軍の兵舎近くで日本軍が夜間演習を行なったのがきっかけだ。つまり「演習」は、米韓による朝鮮に対するむき出しの戦争挑発に他ならないと白さんは断言した。白さんは「演習が終わるまでは足を伸ばして寝られない」ほどの強い危機感をもち、日本政府による朝鮮に対する「独自制裁」下、日本に帰ってこられない可能性も考えた上で訪朝した。
 「斬首作戦」は、最高指導者の首を斬り平壌を占領し政府を転覆するという「計画」で、傲慢無礼という域ではない。日本のマスコミは「朝鮮が挑発している」と報じ、それを当たり前のように受け入れる日本人民がいる。政権に奉仕するマスコミに誘導され、再び日本の人民が侵略戦争に駆り立てられていることへの警鐘を、白さんは力の限り鳴らすように話された。白さんは非常に緊張して朝鮮に入ったが、予想とはまったく違い平壌も開城も平静だったという。人民軍が街中を駆け回るとか、大砲が据えられるとかはまったくなく、子どもたちは歌いながら登校し、老人たちは大同江で釣りを楽しむ。
 米の圧迫のなかで、朝鮮のこの落ち着きはどこからくるのか白さんはあらためて考えたという。それは、党と指導者と人民の団結が固いことからくる。これは抽象的なスローガンではなく、米の朝鮮に対する孤立抹殺政策に、七〇年間耐えてくるなかで獲得された“耐える力”なのだと。一九六二年以降、経済建設と軍事建設の「並進路線」がとられ、今は経済に重点がおかれながらも、全人民の武装化・近代化、全国の要塞化、全兵士の幹部化(軍人の質を高めること)が、米の敵対政策に対抗するために実践されている。
 朝鮮を知る上で九五年から五年余の「苦難の行軍」の時期が極めて重要だが、日本では知られていないことを白さんは指摘した。記録的な大雨、洪水、日照りなどの大規模自然災害で多くの人が死に、国家予算が立てられないほどの危機だった。指導者・金正日総書記と、協働し社会主義を守り試練を耐え抜いた人民が、いまの経済発展の基礎を築いた。そうした歴史的な経過を知ろうともせずに、目の前にある「現象」だけをいくら眺めまわしても朝鮮人民の真の姿は見えてはこないと、白さんの話を聞き考えさせられた。
 白さんは、在日朝鮮人の民族教育に触れ、朝鮮政府から在日朝鮮人の民族教育のために莫大なお金が送られてきたことについて語った。一九五七年から、一六一回、総額四八一億円だ。朝鮮戦争直後の困難のなかから、文字通り血のにじむ金を在日朝鮮人の民族教育の権利のために出してくれた、文字通り母国だと。一方韓国は、日本政府とともに、民族教育をやめさせろという態度で一貫していると指摘した。
 強大な米に対して朝鮮は一歩も退かない。米の朝鮮に対する「孤立抹殺」はすべて破綻している。朝鮮の願いは、話し合いであり、平和な生活である。ゆえに、停戦協定を平和協定に転換すべきという明瞭な提案を、朝鮮は米に対して続けていることを白さんは強調した。
 米と真っ向から対立する国だからこそ、米は朝鮮を抹殺しようと躍起になる。そうした朝鮮に対する「脅威論」にからめとられた日本の状況を直視し、克服のための学習と対話に努めたい。【米丸かさね】

(『思想運動』986号 2016年9月1日号)